2005年10月26日

★三島由紀夫『春の雪』映画化

三島由紀夫原作の映画『春の雪』がいよいよ今週末から公開される。主演は妻夫木聡に竹内結子。主題歌は宇多田ヒカル。監督は行定勲 。ともに貴族社会にぞくする清顕と聡子は幼馴染み。聡子と宮様との婚約が決まってから清顕の恋情に火がつき、二人は道ならぬ恋に墜ちる。映画化を知ったときワタシは清顕には及川光博などどうだろうと思ったものだが、その及川は洞院宮治典王役だった。
原作は輪廻転生を主題とした三島由紀夫の四部作『豊穣の海』の第一部である。コッポラは『豊穣の海』の映画化を望んでいたというが、今回の『春の雪』は原作からあくまで恋愛ものとしてのプロットを借りただけの作品らしい。原作では清顕の親友本多は四部全体に登場する唯一の登場人物で、第二部以降各部ごとに、最期の一人をのぞきいづれも早世する清顕の生まれ変わりとおぼしき人物に次々と出会う。『奔馬』では少年右翼テロリスト・勲、『春の海』ではタイの姫君・ジンジャン、『天人五衰』では孤児で本多が養子にむかえる少年・透。本多から見て生まれ変わりの徴は、脇の下にある三つの黒子である(ユルスナールなどは三島の評伝においてこのあたりに違和感を見せている)。ところが試写をごらんになった方によれば、映画では三つの黒子こそ聡子との濡場で見えるものの、海水浴で本多が清顕の黒子を見る場面はない。また第二部『奔馬』とのつながりとしては、清顕の家の書生飯沼は、後に清顕の生まれ変わりの父となる重要人物なのだが、今回の映画では登場すらせず、人物設定がいくらか本多に移されているとのこと。どうやら初めから転生の話として後につなげる意思はない様子なのである(そもそも映画が大ヒットしたところで、現在の映画事情では大河的連作の製作はほぼ不可能らしい)。
また恋愛物語という観点にしぼってみても、清顕の「絶対の不可能」に魅せられ「至高の禁」をやぶることこそ「優雅」とする、いかにも三島的な行動原理はまったく描きこめられていないということだ。一言で言えばべつものなのである。主人公の心理の単純化とならば三島があこがれたラディゲの、『肉体の悪魔』の映画版を思い出してしまう。しかしともあれ原作に注目が集まるきっかけにはなるであろう。実際amazonの和書売上でも上位にあがっているようだ。
ところで原作の前半二作では主人公はあくまで清顕であり勲であるのだが、後半ではほとんど本多が主人公であり、小説としてのタッチもあまりに変わるため、全体としては失敗作との評価もある。透以外は皆早世するのであるが、ここにはラディゲような夭逝を願いつつ果たせなかった三島の思いが込められているようだ。第四部『天人五衰』の最期では、年老いた本多とその後尼僧となった『春の雪』のヒロイン聡子と再会が描かれ、聡子の衝撃的な言葉でしめくくられる。読んでのお楽しみである。この場面は四部作のしめくくりであるとともに三島の全作品の、そして人生のしめくくりでもあったと思われる。


※原作『春の雪』新潮文庫版
※『春の雪』メイキングDVD/サントラCDも発売中

[追記:06・04/28]『春の雪』DVDが発売されました!!
posted by rawramp at 00:00| 京都 晴れ| Comment(10) | TrackBack(24) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お知らせありがとうございます。
早速やって来ました。
やっぱり主人公を妻夫木君にした時点で【「至高の禁」をやぶることこそ「優雅」とする】三島由紀夫の一番の落としどころは観れないと覚悟しました(笑)
及川光博だったら、きっと映画の方向性も変わったでしょうね。
コッポラも映画化したかったんですね。
けれど、この小説はかなり観念的に書かれているので
映像化するのは難しそうですよね。
一場面だけを抜き出すのであれば「芝居」というスタイルが
彼の作品に相応しいような気がしました。
Rさんの最後の一文で、やっぱり最後まで読むか…という気になったりして(笑)
Posted by 涼子 at 2005年10月26日 12:33
こんばんは、龍の目です。
お知らせトラバありがとうございました☆
予想していたこととはいえ、
やはり大河的連作(ジャストな表現ですね)が
難しい昨今の映画だけに、
すこし残念な結末だったような気がします。
ただこの映画をきっかけに、
三島の小説を手にする方が増えると好いですね。
かくいう僕も学生時代に買った、
「美徳のよろめき」と「青の時代」を
引っ張り出して読み始めています。
Posted by 龍の目 at 2005年10月26日 21:16
涼子さん
確かにこの作品はたとえば本多の法律をめぐる考察なども重要な部分ですし、それを仮に映像化すると妙なものになるでしょうね。
しかし映画化というのはかならずしも原作に忠実である必要はないと思います。
ところで映画化にあわせて「ベルばら」の方が漫画化されているそうで。
Posted by rawramp at 2005年10月27日 22:31
龍の目さん
書店では『豊穣の海』全巻に映画原作という帯をつけて売り出していましたよ。主演の二人のファンや監督のファンで、とりあえず手をつけてみる人が少なからず出てくることでしょう。期待はずれでも知りませんが。
三島の中編ではワタシは『午後の曳航』が好きなのですよ。で、これはイギリスで映画化されているのですが、DVDの国内版が年内に発売されるようなのです。近日中にあらためてここでとりあげようと思っています。
Posted by rawramp at 2005年10月27日 22:40
TBありがとうございます。
お礼に当方から『春の雪』のTB返しというのはあまりにもあたりまえすぎますから、思い切りひねったTB返し、させていただきました(笑)。
映画と原作は別物ということ、私もそれでいいと思いますが、原作が三島ともなると、どうしてもその比較論になってしまうのですね。私には、三島の『春の雪』、けしてバランスがいい小説とは思えないのですが、それでもある観念性の高さはもっていたんだということ、映画と比べながら発見しました。そうした発見のきっかけになってくれたことで、映画がつくられたのはよかったと思っています。
Posted by lunatique at 2005年10月31日 14:48
こんにちは♪
TBありがとうございました。
輪廻転生がテーマの4部作のうち、恋愛部分にスポットを当てたとなると、ちょっと三島の趣旨とは違ったものになるやも知れませんね。
清顕はあまりにも複雑な心理を持っていますし・・・。
とはいえ、大正時代の風俗や良家の方々の暮らしぶりなどとても美しく、楽しんで見ることができました。
Posted by ミチ at 2005年10月31日 17:48
lunatiqueさん、異彩をはなつTBにご来訪、ともどもありがとうございます。僭越ながらもうしあげますと、ブログタイトルに相つうじあうものがあるようですね。
記事はときどき改訂するのですが、ユルスナールはおとすことが出来なくなりました(笑)。このような話題のひろがりこそ、ネットの愉しみなのでしょう。
こちらからもおじゃまいたします。
Posted by rawramp at 2005年11月02日 00:21
ミチさん、いらっしゃいませ。
問題なのはその恋愛にのめりこんでいくキッカケなのですね。
三島の恋愛観といってはナンですが、短編「雨の中の噴水」にもとんでもなく屈折した恋愛が描かれています。
Posted by rawramp at 2005年11月02日 00:28
大変、大変遅くなりまして申し訳ありませんが、
TB有難うございました(随分昔ですが)。
キャスティングを知った時、なんだか話題を呼び込みたいだけなのかな?と少し残念な気持ちになり、観に行ったところ、映像はとても美しかったです^^
けれど、なんだか勿体無い気がしましたね。
作品を映像化するのは本当に難しいなとしみじみ思いましたねー
Posted by 紫月 聖 at 2005年12月08日 20:08
紫月さん いえいえTB返しありがとうございます。文芸作品の映画化もいろいろです。これから紹介予定の、やはり三島原作『午後の曳航』は、イギリスでの映画化ながら、まったく原作のイメージをこわさない仕上がりになっていました。

Posted by rawramp at 2005年12月09日 23:23
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