2005年11月30日

★寺山修司『上海異人娼館』

日本でパゾリーニが本業の詩人としてよりも映画監督として知られているように、ヨーロッパでは寺山は歌人・演劇人であるまえに映画監督として知られていると聞く。その寺山の1980年の映画作品『上海異人娼館』。原作はポリーヌ・レアージュの『O嬢の物語』の続編草稿「ロワッシーへの帰還」なのである。
『O嬢の物語』と言えばマゾヒスム小説の最高傑作と言われる長編である。フランス文学界の大御所ジャン・ポーランの序文表題「奴隷状態の幸福」から、その主題については推してはかりたい。なお作者の正体は長きにわたり謎であったが、近年、やはり文学界の重鎮であったドミニク・オーリ女史が作者であり、ポーランに捧げた作品であったことが明らかになっている。
正編は先に「エマニエル夫人」のジュスト・ジャカンによって映画化されていたが、本作は愛するルネの手により彼の敬愛するステファン卿に引き渡された“O"のその後を描く。“O“は香港の娼館「春桃楼」に娼婦として売られ、ステファン卿は別の愛人とともに暮らす。しかしすべては”O"をためす為だったのだ。来る日も来る日も様々な”客”に身をゆだねながら、はたして彼女はステファン卿への心の忠誠をつらぬくことができるのか? ある意味、男の滅びの美学に収斂していくストーリー展開。
ステファン卿役には怪優クラウス・キンスキーを配する。”O“役はイザベル・イリエ。娼館のマダムには『薔薇の葬列』でカルト・スターとなったピーター。プロデュースは『ブリキの太鼓』『愛のコリーダ』のA・ドーマン。撮影鈴木達夫。編集には『かくも長き不在』の監督アンリ・コルピ。音楽はJ・A・シーザーに美術は合田佐和子という布陣。
寺山と言えば60〜70年代というイメージがあるが、本作は娼婦役の山口小夜子の絵面や、シーザーの音楽のサウンドまでも、しっかり80年代風味である。また『愛のコリーダ』のプロデューサーだけあって"ハード・コア”の濡場(主演女優ではない)も売りらしい。しかしまあ寺山といえば日本的土俗性をベースとする作風。そこへもってきて舞台は香港。ナレーションはフランス語、セリフは日本語に英語。キンスキーは一挙手一投足からもヨーロッパ的デカダンスの匂いをぷんぷんふりまく。画面は色付フィルターで、大林宣彦みたいな出崎統みたいな人工的な影がついて…。総体的になんというかちぐはぐな感はいなめないのだが、それもキッチュな魅力とうけとめるべきだろうか。
この作品はすでに紀伊国屋からDVDが発売中なのだけれど、来る12月22日は同じところから新たにリマスター版が発売される(ということは結構売れているのだ)。現在予約受付中。
なお昨年にはイラストレーター宇野亜喜良ひきいるカンパニー、ダンスエレマンにより主人公を"桜"(おう)として舞台化、あわせて宇野による絵本『上海異人娼館―ダンス・エレマン版』が製作されている。

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『上海異人娼館 チャイナ・ドール』 デジタルリマスター版
posted by rawramp at 00:21 | 京都 ☀ | Comment(8) | TrackBack(1) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
新高恵子がやっぱり、好きなんですけど、
山口小夜子もやっぱり大好きなのです!!
この映画、好きです1
Posted by たまり at 2005年12月01日 01:48
新高恵子、なんか印象に残る役でした。あの"自分を女優だと思っている娼婦"のシークエンスがなんといっても寺山的でした。本筋から浮いてるかんじもするけど。山口小夜子は役柄上印象うすめでしたね。
この映画が寺山映画で一番お好きなんでしょか?

Posted by rawramp at 2005年12月02日 01:08
ああ、一番って決めれないんですよね、田園に死すか、書を捨てよか、草迷宮か・・・田園ですかねえ。迷ってしまう、ほんと。
Posted by たまり at 2005年12月02日 02:28
たまりさん、いやあ寺山お好きなのですね。
あたくし残念ながら『草迷宮』は未見なのですが、一般的に代表作は『田園に死す』ではないでしょか。あの三上寛はオーシマの『新宿泥棒日記』の唐十郎以上にカッコイイでした。『書を捨て』のラストはちょいと苦痛でした。
しかしなんだ、覗き趣味があったという寺山、『上海』を撮るときも覗き気分があったのでしょうか?
関係ないが誰かが「寺山習字大会」という作品を作ってましたよ。子どもたちが「寺山」と書いている絵です。
Posted by rawramp at 2005年12月03日 23:17
寺山習字大会、気になりますね、それは。
三上寛カッコよかったですね!ほんと!
新宿泥棒日記の唐さんは、勿論、横尾さんのカッコよさにまいりましたよ。
Posted by たまり at 2005年12月04日 01:27
>横尾さんのカッコよさ
あのどう考えても演技の基礎がないセリフまわし。オーシマの演出理念にはピッタリなんでしょうね。日常でも言葉がすべて明瞭に聞き取れないのだから、映画でもそれでいいとか演技はさせないとか。横山リエもヨカッタ・・・。
Posted by rawramp at 2005年12月06日 00:25
はじめまして。
コメントありがとうございます。
興味深い記事がいっぱいで
いろいろ読ませていただきました。
TBもさせていただきました。

「上海異人娼館」の映画は、色彩が
妖しい感じで、独特の世界観が
ありましたね。
Posted by ユカリーヌ(月灯りの舞) at 2005年12月22日 15:09
ユカリーヌさん、いらっしゃいませ。
TBありがとうございます。
確かに独特です。
真似ようとしても出来ないでしょうね。
またおこしくださいませ。
Posted by rawramp at 2005年12月30日 20:57
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